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dz:ndd:pd

パーキンソン病 PD

Tips

  • 急速発症することはない。その場合は基本的に薬剤性パーキンソニズムや脳血管障害を疑う
  • すくみ足は歩行開始時,曲がり角,入り口,狭い場所で生じやすい
  • DBSの適応部位は,視床(Vim),淡蒼球内節(GPi),視床下核(STN)
    • Vim,GPiはDBSも破壊術もある

疫学

  • 人口10万人あたり100人~150人くらい(1000人に1人~1.5人)の有病割合
  • 60歳以上においては100人に約1人(10万人に1000人)とする報告もある
  • 高齢に多い疾患

原因

  • 一部遺伝性のパーキンソニズムもあるが,多くの場合直接的な原因は不明
  • 病理学的には中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少しており症状の原因とされている.
    • ドパミン神経細胞が減少する理由は未解明
    • ドパミン神経細胞の中にαシヌクレインが凝集蓄積することから,病理学的にはαシヌクレイノパチーに分類

診断基準

  • 2015年の MDS 診断基準が臨床的有用性が高い1).邦訳解説あり2)
  • まず第一にパーキンソニズムがあること.
    • 「動作緩慢」+「静止時振戦/筋強剛の一方または両方」
  • Clinically Definite: 上記に加え,絶対的除外基準を満たさず,少なくとも2つの支持基準を満たし,red flagsもないこと
  • Clinically Prbable:Red flagsの項目があるが,同数以上の支持的基準の項目がある
    • このように診断基準に Red flags が明確に盛り込まれたことで,少なくとも診断後に5年(より厳密には10年)追跡しなければ clinically difinite になり得ない点が明確になった.

支持的基準 supportive criteria

  1. ドパミン補充療法による明確で劇的な効果
  2. L-dopa誘発性のジスキネジアを認める
  3. 診察により実際に確認される上肢または下肢の安静時振戦
  4. 嗅覚消失,あるいは MIBG心筋シンチグラフィにおける心臓交感神経の脱神経

絶対的除外基準 Absolute exclusion criteria

1 小脳症状 診察上,明らかな小脳症状を認める
2 眼球運動 下方への垂直性核上性眼球運動障害,または下方への衝動性眼球運動が選択的に速い
3 PSP 発症5年以内に行動障害型前頭側頭型認知症原発性進行性失語の診断基準を満たす症候
4 下肢限局 パーキンソニズムが3年を超えて下肢に限局する
5 薬剤性 ドパミン受容体遮断薬あるいはドパミン枯渇薬の投与歴があり,その投与量および投与期間が薬剤性パーキンソニズムとして矛盾しない
6 L-dopa無効 少なくとも中等度の重症度にもかかわらず高用量のL–ドパによる客観的な効果がない,観察可能な反応がみられない
7 皮質性感覚障害 明らかな皮質性感覚障害(皮膚書字覚障害,一次性の感覚障害を伴わない立体覚障害),明らかな四肢の観念運動失行,進行性の失語を認める(cf.CBS
8 DAT正常 機能画像でドパミン系の節前機能が正常である
9 別の診断 パーキンソニズム関連づける事が妥当であると判断される,あるいは評価担当の専門医が十分な診断的評価に基づき,PD以外の別の症候群である可能性が高いとの判断

10 Red flags

  • 要するに,経過を見ていきながら MSAっぽさ,PSPっぽさ,進行しなさを確認していこうということ.
    • MSA:夜間吸気性喘鳴,重度自律神経障害,早期の首下がり,錐体路障害
    • PSP:早期の反復転倒,両側性パーキンソニズム
1歩行障害の急速進行発症5年以内に,常時車椅子を必要とする
2運動症状の進行なし5年以上運動症状の進行が全くみられない(治療により症状が安定している場合は除く)
3早期の球症状発症5年以内に,重度の発声障害,聞き取り困難な構音障害あるいは重度の嚥下障害(軟食,経鼻胃管あるいは胃瘻栄養)
4吸気時の呼吸障害日中あるいは夜間の吸気性喘鳴や頻回の深い吸気 inspiratory sighs(cf.MSA
5早期の重度自律神経障害発症5年以内の重度の自律神経障害:起立性低血圧3)または重度の尿閉/尿失禁4)
6早期の反復性転倒発症3年以内の姿勢保持障害による反復性(年2回以上)の転倒
7早期の首下がり・拘縮発症10年以内にしては不釣り合いな首下がり(ジストニア性)あるいは手足の拘縮
8非運動症状の欠落罹病期間が5年に達しても,以下のよく見られる非運動症状を全く認めない.睡眠障害(睡眠維持困難による不眠,日中の過度の傾眠,RBD),自律神経障害(便秘,日中の尿意切迫,症候性の起立性低血圧),嗅覚低下,精神障害(うつ,不安,幻覚)
9説明困難な錐体路症状他に説明のつかない錐体路徴候による脱力あるいは病的反射亢進(軽度の反射の左右差,足底反射での伸展のみの場合は除く)
10両側対称性パーキンソニズム患者あるいは介護者が,発症時に左右差のない両側の症状があったと報告し,かつ診察でも左右差が認められない

症状

  • 症状の経時的な評価には MDS-UPDRS を用いる5)
    • part1(16点):精神機能,行動および気分
    • part2(52点):日常生活動作(オン時・オフ時に分けて評価)
    • part3(108点):オン時の診察
食餌性低血圧食事負荷 ⇒ 消化管ホルモンニューロテンシン分泌 ⇒ 血圧低下,血管拡張 ⇒ 交感神経で代償,となるのが健常者.PDではこのバランスがとれず血圧低下する.経口で糖・炭水化物をとると起きるが,脂質やタンパク質では軽度.ブドウ糖静注では起きにくい.胃からの排出時間が遅いほど血圧低下は軽度.
signpost phenomenon腕木信号現象.肘を突いて前腕を挙上させたまま力を抜くよう指示しても下垂手にならず,指も伸展気味のまま維持される現象.両手で肘をついて脱力してもらうと左右差が検出しやすい.錐体外路症状の 1 つ.あまり海外の文献では見かけない?
Westphal現象Westphal現象は錐体外路性の反射.筋を受動的に短縮させた場合,短縮させた筋に持続的な筋収縮が誘発される現象.前脛骨筋で最も出やすい.rigidity がみられる足関節を他動的に背屈した際に前脛骨筋が隆起する.筋疲労や動作開始の筋出力の遅れとの関連が疑われている
Rebound phenomenonSteward-Holmes rebound phenomenonとも.肘関節屈曲位をとってもらい検者が拮抗しながら維持させ,急に手を離すと被検者が自らの胸を叩打してしまう.小脳性協調障害によるとされる.

検査

MRI 特異的な所見はない.3T以上の MRI では,T2WI,T2,磁化率強調画像で黒質低信号を呈するという報告がある
MIBG心筋シンチ心筋への集積低下を認める.感度,特異度ともに80%以上とされているが,偶発LBD,自律神経ニューロパチー合併,3環系抗うつ薬で集積低下するため注意.また,一部の家族性パーキンソン病や振戦優位型では時に集積性条例がある6)
DATシンチ正常加齢でも低下する点に注.SSRI内服中は集積を過剰評価しやすいため注意.黒質線条体系の変性に伴うParkinson症候群(DLBMSAPSPCBDではいずれも黒質ドパミン神経が変性するために,線条体のioflupane集積が低下する.ET,AD,VaDからの鑑別感度は 89%,特異度91%.7)薬剤性パーキンソニズムでは低下しない.
脳血流シンチ鑑別疾患の除外に有用なことがある.

治療

  • 別途:抗パーキンソン病薬参照.
  • パーキンソン病治療の基本薬はL-dopaとドパミンアゴニスト
  • 早期にはどちらも有効であるが,L-dopaによる運動合併症が起こりやすい若年者は,ドパミンアゴニストで治療開始することも選択肢
  • 高齢者(目安として70~75歳以上)及び認知症を合併している患者は,原則L-dopaで開始.
    • 理由1:ドパミンアゴニストによって幻覚・妄想が誘発されやすい
    • 理由2:運動合併症の発現は若年者ほど多くない
  • 手術療法
    • 手術療法も症状を緩和する対症療法であって,病勢の進行そのものを止める治療法ではない
    • 服薬とは異なり持続的に治療効果を発現させることができるのが利点
  • kinesia paradox8) はリハビリに活用される

予後

  • 進行性の疾患である.
  • 進行速度には幅があるが,一般的に振戦が主症状だと進行は遅く,動作緩慢が主症状だと進行が速い
  • 適切な治療を行えば,通常発症後10年程度は普通の生活が可能である
  • 生命予後は決して悪くなく,平均余命は一般より2~3年短い程度とされる.
  • 生命予後は臥床生活となってからの合併症(とくに誤嚥性肺炎など)に左右される

病理

  • αシヌクレインが凝集し蓄積して形成されたレヴィ小体(皮質型画像脳幹型画像)が多数出現
  • Braak分類によれば,病初期から病理学的変化をきたすのは迷走神経背側核と嗅球
    • ステージ1:迷走神経背側核と嗅球
    • ステージ2:縫線核,網様核,青斑核
    • ステージ3:中脳黒質
    • ステージ4:視床,中間皮質(帯状回,海馬)
    • ステージ5:大脳新皮質
1)
Postuma RB, Berg D, Stern M et al : MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson's disease. Mov Disord 30 : 1591–1601,2015
2)
神経治療 35:257–264,2018 J-Stage
3)
3分以内に少なくとも収縮期30mmHgあるいは拡張期15mmHgの血圧低下が見られ,自律神経障害を来しうる脱水,薬剤あるいは他の疾患が存在しない
4)
女性の場合,長期間持続あるいは少量の腹圧性尿失禁は除く.男性では尿閉の原因は前立腺疾患ではなく,勃起障害を伴う
5)
MDS-UPDRS 評価項目の一覧はエーザイ社 HPで確認可
6)
パーキンソン病ガイドライン2018
7)
BMJ open 4:e005122, 2014.DOI
8)
視覚的または聴覚的手がかり(Cue)を使用することで PD 患者のすくみなどの歩行障害が軽くなること
dz/ndd/pd.txt · 最終更新: 2022/12/07 by admin

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