dz:pns:cidp
CIDP
- 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy
- 慢性進行性または再発寛解性の運動感覚障害をきたすニューロパチー
- 神経根〜末梢神経遠位端の間で pathy な脱髄病巣を形成する
- typical CIDP では,生理的な血液神経関門 BNB 欠如部位(=遠位端と近位端1))が主な病巣
- つまり障害は神経の長さに依存しない(non-length dependent)
- 近位筋(=短い神経),遠位筋(=長い神経)どちらも障害されるのが typical CIDP の臨床像
鑑別診断
- きわめて誤診が多い疾患.誤診については PMC7229131 が詳しい2)
- 脱髄性ポリニューロパチーの鑑別は PMC7229131 table2 がよく纏まっている
- CIDPで疲労や疼痛,自律神経障害を合併することはあるが,これらが主症状の場合は red flag
- 疼痛主体は血管炎性ニューロパチー,自律神経障害主体はATTR-FAP(集積地型)
Typical CIDP
- 以下の全てを満たす3)
- 進行性または再発性, 左右対称性, 近位+遠位の四肢筋力低下 + 最低2肢の感覚障害
- 最低8週間以上かけて進行性の経過
- 四肢腱反射の低下〜消失(Absent or ↓ DTR in all limbs)
- 端的には “proximal=distal, symmetric, motor-dominant” という臨床像
CIDP variants
- 2010 ⇒ 2021 の EFNS/PNS ガイドライン4)で atypical CIDP から名称が変わった
- typical と variants での共通項は「2ヶ月以上の慢性経過」であること
Distal CIDP | 旧称 DADS5).遠位の感覚消失+運動障害,特に下肢優位. distal CIDP のうち大部分は 抗MAG抗体関連ニューロパチー(2/3程度) |
Multifocal CIDP | 旧称 MADSAM6),Lewis-Sumer症候群(LSS). 多発単神経障害の分布での感覚運動障害(=通常左右非対称). 上肢優位で,1肢以上の関与. Typical CIDPと比べ IVIg が効きにくい.ステロイドが有効.Typical CIDP が障害しやすい BNB 脆弱部(神経根近傍やNMJ近傍)ではなく,神経幹を障害する. |
Focal CIDP | 1肢での運動感覚障害 |
Motor CIDP | 旧称 pure motor. 感覚障害なし.どの程度「実在」するのか? controversial. |
Sensory CIDP | 旧称 pure sensory.運動症状なし.どの程度「実在」するのか? controversial. |
Autoimmune nodopathy
- ランビエ絞輪部(node of Ranvier)に局在するさまざまな蛋白抗原を標的とするIgG4 クラスの自己抗体が相次いで発見され,抗体陽性例は特異な病像を呈することから,autoimmune nodopathyという新たな疾患概念が生まれつつある7)
- ”suggested to consider testing for nodal and paranodal natibodies in all patients with clinical suspiction of CIDP”8)
- IgG4 paranodal 関連抗体(NF155, CNTN1, Caspr1),nodal 関連抗体(NF186)
- IVIgやステロイドの治療に抵抗性
- 急性〜亜急性経過(GBS,acute-CIDPが鑑別となる)
- 感覚障害に比して振戦や深部感覚失調が目立つ
- 小脳失調または遠位の筋力低下を伴う
- 呼吸不全や脳神経障害を伴う(GBSと異なり,CIDPでは非典型である)
- ネフローゼ症候群を伴う
- 髄液蛋白の著明高値
(para)nodal 抗体別の特徴
- NF186は部分的に IVIg反応性あるが,他は基本的に効果が乏しい
paranodal関連抗体 IgG4 | |
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NF155 | CIDPの3〜18%で陽性.比較的若年発症,遠位優位型の割合が高く,深部覚低下や振戦を高頻度に認める.CSF蛋白は100 mg/dL 以上.200以上の著明高値も.MRNで神経根および近位部末梢神経の肥厚が目立つ.病理では横断では軸索変性の方が目立つ.ときほぐし線維法で,絞輪間距離が開大する.NCSは明確な脱髄.IVIgの効果は乏しい. |
CNTN1 | NF155より稀.臨床像は未確立だが,比較的高齢で,GBSほど急速な症例がある.膜性腎症を伴いネフローゼをきたすケースがある.IVIg反応性低い,ステロイドに部分的に反応,リツキシマブに反応する可能性. |
Caspr19) | 病的意義は未確立.疼痛性障害が目立つ.IVIgは無効で,ステロイドには一時的に反応し,リツキシマブ投与で症状改善の報告がある. |
nodal関連抗体 | |
NF186 | 臨床像は未確立.ネフローゼ症候群をきたした報告がある.IVIg,ステロイドは有効なこともある. |
- NF155抗体陽性の自己免疫性 nodopathy が現在最も臨床像が確立されている
- CIDPとは別疾患として扱う方向でまとまっている
腓腹神経病理
- typical CIDP でない場合には腓腹神経生検が検討されるが,Sural not evoked でない場合は慎重な適応判断となる
- 生検部位より近位の脱髄によって生じた二次性の軸索変性や神経再生所見が併せて観察される点に注意
- 小径有髄線維より大径有髄線維が優位に障害され,無髄神経線維は良好に保たれる
- 神経上膜の小血管周囲に軽度のリンパ球主体の炎症細胞浸潤を認めることがある
- 神経周膜下浮腫を認める
- 横断像では patchy さを反映し以下を全て認めうる
- 急性脱髄所見(naked axon)
- 再髄鞘化所見(薄い髄鞘,1〜数層のオニオンバルブ)
- 急性二次性軸索変性所見(ミエリン球)
- ときほぐし標本では,脱髄所見(節性脱髄や絞輪間距離の不均一性)を検出し易い
参考
- Bunschoten C, et al. Progress in diagnosis and treatment of chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy. Lancet Neurol. 2019;18(8):784-794 PMID31076244
- 飯島正博. 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーのサブタイプと治療選択 J-Stage
dz/pns/cidp.txt · 最終更新: 2023/11/28 by admin