内科のメモ帳

ずぼらな覚え書き

ユーザ用ツール

サイト用ツール


dz:pns:attr-fap

ATTR-FAP

  • ATTR による家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP):常染色体優性遺伝(AD)
    • 肝臓,網膜,脈絡叢で産生された異形トランスサイレチンが各臓器に沈着
      • 末梢神経,心臓,消化管,眼,脳血管が症候性となりやすい
  • 典型的な症例は 30 番目のバリンがメチオニンに置換したタイプ(FAP ATTR Val30Met)
  • 本邦においては,長野県(小川村)と熊本県(荒尾市)が二大集積地
    • 近年,高齢発症の非集積地 FAP ATTR Val30Met が散発的に全国で報告あり
  • NCSはいずれも軸索障害を示唆するが,障害が強いケースでは伝導速度遅延や遠位潜時延長を伴う
  • 病理は集積地 Val30Met であれば Small Fiber Neuropathy を支持する所見を呈する
  • 以下のように,色々な科を転々とすることがある
    • 硝子体混濁で手術(対光反射消失や瞳孔不整,緑内障も高頻度に認める)
    • 排尿障害で泌尿器科で尿道バルーン留置
    • 完全房室ブロックでPM留置
    • 両側手根管症候群で整形外科で手術
    • 難治性潰瘍で皮膚科受診
    • 繰り返す胃腸症状で消化器内科受診
  • 心エコーで granular sparkling,輝度上昇,心室中隔肥厚など特徴的所見

集積地 vs 非集積地

  • 小池らの報告1)より抜粋
  • 臨床症状の違いに対応するように病理学的にも違いがみられる
臨床的特徴 集積地 ATTR Val30Met 非集積地 ATTR Val30Met
発症年齢 34.4 ± 6.42) 64.0 ± 6.4
男/女比 0.9/1 4.5/1
浸透率 高い 低い
家族歴 よくある まれ
表現促進現象3) あり 明確ではない
神経初発症状 自律神経症状
感覚障害
感覚障害
解離性感覚障害4) よくある まれ(深部覚と表在覚は同程度の障害)
病初期の自律神経障害5) 重度,ADL障害あり 軽度,ADL障害伴いにくい
心障害 房室伝導ブロック 心肥大6)をきたしやすい
伝導障害は低頻度
神経病理の特徴 集積地(若年発症) 非集積地(高齢発症)
病初期の障害線維 small fiber neuropathy
小径線維優位の脱落
無髄線維の脱落
障害線維の選択性に乏しい
有髄繊維が病初期から高度脱落
無髄線維は比較的保たれる
神経アミロイド沈着 重度 比較的軽度7)
後根神経節 vs 交感神経節 交感神経節により高度な沈着 後根神経節により高度な沈着
その他臓器への沈着 甲状腺,消化管,膵臓,副腎,腎臓 心臓・下垂体前葉
心臓アミロイド沈着 心内膜下に目立つ
(⇒心筋萎縮・伝導障害)
変異トランスサイレチンが多くを占める
心筋全層にびまん性
(⇒心筋肥大)
正常トランスサイレチンが多くを占める
偏光顕微鏡 染色性・緑色複屈折性:強
長い繊維が同一方向に並ぶ傾向
染色性・緑色複屈折性:弱
方向性を持たない短い繊維

病理の Tips

  • 血管炎と同様,アミロイドは末梢神経に patchy に沈着することが重要.
    • つまり1枚の横断面の凍結固定標本だけではアミロイド沈着を証明できないことは少なくない
      • 何十枚と標本を切り進める作業がしばしば必要になる
      • ときほぐし線維法で長軸方向に観察することが時に有用となる
  • 再生線維は観察されにくいことが知られている

治療

  • ATTR-FAPでは肝臓から産生された遺伝的に変異のあるTTRの四量体構造が不安定になり,TTRが単量体に解離.
    • 単量体となったTTRは適切に折りたたまれなかったり(ミスフォールディング)一部が分解されたりしたものが自己集合してアミロイド線維となり多臓器に沈着する
  • 肝臓で変異TTR産生(①) ⇒ TTR四量体が不安定で単量体に解離(②) ⇒ 単量体のミスフォールディングや分解 ⇒ 自己集合してアミロイド線維となり多臓器沈着(③)
    1. 肝移植 または siRNA製剤(TTR産生抑制) = パチシラン(点滴静注)
    2. 四量体安定化剤
    3. 対症療法
肝移植 最も長期的なエビデンスを有する疾患修飾療法.ただしあくまで進行阻止治療.術前症状の多くは残存する.また網膜色素上皮細胞・脈絡叢など肝臓以外から産生される変異型TTRは阻止できない.そのため硝子体混濁や緑内障などの眼合併症や脳アミロイドアンギオパチーなどの中枢神経合併症は発症する
パチシラン点滴 siRNA薬.2019- 本邦保険収載. TTRmRNA を選択的に分解する遺伝子サイレンシング(RNAi).
タファミジス内服 TTR4量体安定化薬.2013-末梢神経障害, 2019-心アミロイドーシスに本邦保険収載.
1)
臨床神経 2011;51:1134-1137 PDF
2)
Mean±SD
3)
anticipation
4)
sensory dissociation:深部感覚障害に比べて触覚・温痛覚などの表在覚が高度に障害される
5)
下痢と便秘を交互に繰り返す,インポテンツ,排尿障害,起立性低血圧
6)
びまん性アミロイド沈着による
7)
Congo-red染色で検出し損なうことがある
dz/pns/attr-fap.txt · 最終更新: 2022/10/07 by admin

Donate Powered by PHP Valid HTML5 Valid CSS Driven by DokuWiki