内科のメモ帳

ずぼらな覚え書き

ユーザ用ツール

サイト用ツール


sx:vomiting

悪心嘔吐 nausea-vomiting

Clinical Pearls

  • DKA,電解質異常,消化管閉塞,頭蓋内疾患,無痛性MI あたりを R/O したい.
  • 腹部触診の際には,鼠径部や精巣まで確認する(とくに小児).
  • 嘔吐による誤嚥に注意.特に高齢者,意識障害を伴う症例ではまず気道確保が最優先.
    • 患者を診るときは吐物用の袋など用意しておく

嘔吐の鑑別疾患と特徴

Common

胃腸炎 嘔気・嘔吐・下痢3拍子揃ってはじめて診断!
下痢=1日4回以上の軟便・水様便・粘液便
胃・十二指腸潰瘍 胃液と混じるから茶褐色嘔吐
末梢性めまい症 前庭神経核と延髄網様体の嘔吐中枢・第四脳室底CTZは解剖学的に近距離
そのため悪心とめまいは同居しやすい
ケトーシス
ケトン血性嘔吐症
血中ケトン体測定.
小児で有名だが,成人でも Anion Gap 開大時には念頭に置く.
成人の場合は妊娠悪阻,control不良糖尿病,SGLT2i ,飢餓など
薬剤性 ジギタリス,モルヒネ,アミノフィリン,アポモルフィン,
サリチル酸製剤,抗がん剤

Must R/O

DKA 腹痛・悪心・嘔吐で来院する,急性胃腸炎の典型的 pitfall
高度の脱水(tachy),急激な体重減少,Kussmaul大呼吸,呼気アセトン臭など .
1型DMの「発症時」にこれで来院することがあり,見逃し要注意.
もともと診断がついている人であれば,怠薬やペットボトル病歴が重要.
DKA 原因検索の5つのI:Infection, inflammation, infarction, insulin, infant
妊娠(悪阻) 吐き気を訴える女性はとりあえず全員,最終月経,月経周期,妊娠可能性を確認
多いのが妊娠初期(5~10週)であり,本人が妊娠を自覚していないこともある.
原則ビタミンB1補充+等張液補液,脱水の程度と尿中ケトン体を確認する
精巣捻転 放散痛による腹痛のみで,精巣痛なし+嘔吐で来ることがある.
精巣エコーで左右差を確認する.挙睾筋反射は参考所見.
腸閉塞 嘔気あり,排ガスなし.オペ歴・既往確認.
閉塞部位より肛門側の便は出てくるので必ずしも排便が止まるとは限らない
腹部で鼠ヘル確認,高齢女性なら閉鎖孔はCTで見落とさないように注意.
幽門部狭窄や食道狭窄,SMA症候群など,上部消化管に問題がある場合も.
特に腫瘍による悪性狭窄は外せない鑑別.
肝炎・胆管炎・膵炎 胃腸炎様症状で来院することがある.黄疸は気にしておく.
虫垂炎 Alvarado Score は除外に有用とされる.4点以下では除外感度99%. しかし7点以上でも特異度78.8程度
悪心嘔吐が腹痛に先行することはほとんどないとされている点が鑑別ポイント.
誤診される場合の最も多い診断名は「胃腸炎」らしい
急性心筋梗塞 特に下壁梗塞は,嘔気+嘔吐+心窩部痛で来る 
➡ 血管リスク聴取・ECG
脳圧亢進 頭蓋内圧の亢進は嘔吐中枢を刺激する.頭部外傷,脳腫瘍,脳出血,SAH.
構音障害,歩行障害,意識障害, 視力障害などあれば鑑別上位に上がる.
➡ 必ず神経学的所見を(悪心だけで神経学的異常が皆無,というケースはほとんどない)

Pitfall

副腎不全 慢性的な悪心や倦怠感などぱっとしない症状で来院することがあり, pitfall となる.甲状腺も同様.
緑内障発作 眼痛・頭痛を伴えば鑑別上位
髄膜炎 細菌性髄膜炎で悪心嘔吐が主訴になることはほぼないと考えられる(もっと遙かにsickである)が,ウイルス性なら頭痛+悪心が主訴になりうる.項部硬直や neck flexion は確認しておく
CO中毒 COは無臭なので本人が気付いていないことがある
尿管結石 痛すぎて吐きそうになる人はしばしばいる
中毒 食直後の激しい嘔吐・下痢は中毒susp.ヒ素,有機リン,毒キノコなど.

病歴・身体所見

嘔吐の性状 持続時間,回数
吐物の性状 あくまで参考程度だが
コーヒー残渣様:上部消化管出血
便臭のする吐物:下部消化管閉塞
無臭:アカラシア
随伴症状 頭痛 ➡ 頭蓋内疾患,脳圧亢進がないか
胸痛 ➡ 胸部絞扼感ないか,MI・急性心筋炎/心膜炎などのr/o
目眩 ➡ 末梢性めまいなどに伴う嘔気ではないか
下痢 ➡ 胃腸炎っぽい
便秘 ➡ 排ガスもないとなるとイレウスの事前確率↑する
患者背景 オペ歴など既往歴,薬剤歴,旅行歴,
飲食歴(1週間以内の肉・卵の生食,BBQ, 周囲の同症状)
有機溶剤など特殊環境での労働,仕事ストレスなども確認
頭部外傷歴はないか
月経歴 妊娠r/o目的.女性はとりあえず最終月経,妊娠可能性聴取
腹部診察 丁寧に,とくに鼠径部や精巣の確認まですることが望ましい. とくに小児,高齢者.

検査

血糖測定 簡易血糖測定機で良いので,閾値低めに取っておくとよい.
walk-in DKAを胃腸炎として帰宅させるリスクを考えるならば.
妊娠反応 妊娠は否定を.もし陽性となった場合,外任も念頭にエコーでダグラスのEFS確認もするとよい
採血 電解質異常,ケトン体,炎症反応,肝胆膵酵素などをスクリーニングする
VBGも参考になる.sick感がなく医療資源の問題があれば,簡易血糖測定だけでも.
ECG 心窩部痛・悪心嘔吐で.  小児の心筋炎も否定できる
AXR イレウスらしい病歴・腹痛+など,事前確率高ければ施行する
ガス分布異常,便秘など確認
AUS 情報量は多く満足度も高くなるため,ベッドサイドで可能なら閾値低めに検査してよい
  • 急性期にまず確認するのは上記あたりから.
  • 医療資源と時間との兼ね合いで,AXR,AUSでなくいきなり腹部CT を選択することもありうるだろう.
  • 慢性化しているケースでは副腎不全や脳腫瘍といった特殊ケースを探しに行く.

帰宅対応/説明

ぐったり 脱水が高度か,ほかに原因があると思われるためER再診を
少量飲水も不可能 脱水が高度となり危険であるためER再診を
意識レベル低下 必ず再診を.
虫垂炎初期の可能性 否定できていないうちは「初期はわかりにくいことがある」旨をしっかり説明しておいた方がよい

 

入院適応

  • 重症な疾患以外でも下記の状況では入院を考慮する
    • 補液(10ml/hr/kg)後に飲水テストを乗り切れない自家中毒の小児
    • 経口摂取困難かつ独居で脱水補正困難そうな高齢者
    • 輸液で改善とぼしい妊娠悪阻(体重減少5%以上,ケトン体高値など参考)

Tips

  • 嘔吐中枢は以下に分布
    1. 延髄網様体 
    2. 第四脳室底にある化学受容体引金帯(CTZ; chemorecptor triggered zone)
  • 嘔吐中枢の近傍には呼吸中枢,血管運動中枢,消化管運動中枢,唾液分泌中枢,前庭神経核がある1)
    • そのため悪心嘔吐には発汗,唾液分泌,顔面蒼白,徐脈/頻脈,血圧動揺,目眩をよく伴う
  • 雑学レベルだが中枢性嘔吐・末梢性嘔吐というのがある
    • 末梢性のほうが「悪心」をしっかり伴ってからいよいよ嘔吐となりやすい
    • 中性性のほうがいきなり嘔吐になりやすい
      • という通説がある
中枢性嘔吐 末梢性嘔吐
頭蓋内疾患
中毒症・薬剤副反応
代謝異常(肝不全,尿毒症,電解質)
内分泌疾患
精神的要因
消化器疾患
泌尿器疾患
婦人科疾患
心疾患
耳鼻科疾患
緑内障
1)
Ann Intern Med, 95:353.1981
sx/vomiting.txt · 最終更新: 2023/01/12 by admin

Donate Powered by PHP Valid HTML5 Valid CSS Driven by DokuWiki