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めまい dizziness-vertigo
Clinical Pearls
- まず中枢性(特に高齢者/血管リスク)と前失神の否定,薬剤の確認
- 上記を r/oしたら,BPPVか否かを判断.かなり余裕があれば,耳石治療(Epley法等)まで.
- F/N陰性,構語/嚥下障害なし,温痛覚障害なし,立位正中保持+自力歩行可能 ⇒ よほど非中枢性
めまいの鑑別疾患と特徴
Common = 薬剤性・末梢性
- 多いのは薬剤性,末梢性だが,分類不能の不定愁訴的な「めまい感」も実際には多い
薬剤性のめまい・ふらつき
- 実臨床ではかなりの遭遇頻度であり,高齢者では特に念入りに聴取する
- βBなど降圧剤内服・polyphermacy がハイリスク
- そもそも大抵のクスリの添付文書には「副作用」の欄に「めまい」がある.
- 処方時期とは必ずしも関係なく,他疾患が除外されても最後まで鑑別に残り易い
心作用薬 | 降圧薬全般とくにβブロッカー 利尿薬,亜硝酸薬,抗不整脈薬, ヒドララジン,ジピリダモール,メチルドパ,レセルピン |
泌尿器科薬 | αブロッカー全般,シルデナフィル,抗コリン薬 |
聴毒性薬 | アミノグリコシドが代表 |
抗がん剤 | 割と何でもおきる |
中枢作用薬 | ほぼ全てと考えて良いが,特に抗精神病薬全般・BZ系睡眠薬は多い. 抗認知症薬,筋弛緩薬(バクロフェン,チザニジン),抗てんかん薬, 抗Parkinson病薬(レボドパ・ブロモクリプチンなど), 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン,トラゾドン.etc.) etc.. |
NSAIDs | 稀だが処方頻度が高いため時に遭遇する |
末梢性めまい
BPPV | 末梢性めまいの典型. ERの眩暈受診者の大部分を占める.発症平均 40-60y.o. 女性が男性の2-3倍. 後半規管型1) :起床時起き上がった瞬間や就寝時に横になった瞬間に発症しやすい. 外側半規管型:寝返りなどが誘因になり易い. 非常に多いので,closed question で特徴的な病歴を拾いに行く問診が重要. |
前庭神経炎 | 蝸牛症状なし.比較的急性発症.1週間前に前感冒あり.神経へのウイルス感染や血流障害による. 急性の一側性末梢前庭神経障害であり,健側向き方向固定性眼振となる. 急性期のみ,制吐剤や抗ヒスタミン薬で対応. |
Meniere病 | 蝸牛症状あり.耳閉感や難聴・耳鳴りを伴うめまい症.数十分~数時間持続. 内リンパ水腫.めまい全体のわずか数%であるが,なぜか既往にある人が多い(過剰診断?) 女性,30-40歳,前庭神経炎同様に,急性一側末梢前庭神経障害. 健側向き方向固定性眼振. |
突発性難聴 | 蝸牛症状あり.突然生じた高度の難聴が特徴的であり,疑診に至るのは比較的容易. めまい発作は繰り返さず単発性で,難聴が生じた瞬間には回転性が多い. 後々には浮動性となり,数時間~数日の間持続するとされる. |
外リンパ瘻 | 外リンパが鼓室腔へ漏出し,聴覚,平衡機能障害をきたす. 髄液圧,鼓室圧の急激な変動を起こす誘因のあとに突然発症する. POP音の後の耳閉塞感,流水音のような耳鳴りが特徴的. 圧変化の病歴が参考となる.飛行機,ダイビングなど. |
Must R/O = 中枢性・前失神
中枢性眩暈 | 報告によるが,ER めまい受診者の10%程と推計. 小脳出血の60%,小脳梗塞の70%に 「めまい」症状を伴うとされる. 1. 橋~延髄:眼球運動障害・構音障害・顔面運動/感覚・温痛覚障害,歩行障害が顕在化. 2. 小脳葉部:構音障害,上下肢の小脳性運動失調を伴う.F/N testで確認. 3. 小脳虫部:体幹失調のみ.必ず歩容まで確認する.F/N test では検出できない. |
TIA | 数十分~数時間で改善した「めまい」で,他の神経症候を伴った場合は必ず鑑別に挙げる. CTA や MRA で後方循環系の高度狭窄や閉塞がないかはよく確認した方が良い TIA 疑いであれば脳卒中医の判断を仰げない場合,経過観察入院としておいた方が無難 |
前失神 | ECG(徐脈性不整脈,Brugada型心電図,WPW etc)とTTE(AS, HOCM) 出血性素因の問診(認知などでわからなければ直腸診で黒色便確認) |
Pitfall
CO中毒 | 密室・工事中・火事など病歴で判定しつつ ABG で確認 |
片頭痛関連めまい | 国内での報告はあまり多くはないが,国際的には一般的な疾患概念.めまい発作を繰り返して片頭痛の既往がある場合には,音光過敏や閃輝暗点などの症状についても問診で確認する. |
めまいの病歴
- 問診では 「私の ”めまい問診セット”」を予め作っておくと落ちがない
- 問診の重要性はめまいに限ったことではないが,めまいは特に重要
- 最も重要なのは onset と頭位変換後の増悪タイミング
(閉眼して)同一頭位でじっとしていると1分程度で改善するものの,再度動こうとする(頭位変換する)と再然するため動けない
という BPPV らしい病歴を聞き逃さない様,かなりclosedでドンピシャな問診をする.
発症様式 | ■BPPV=頭位変換後,わずかの潜時をおいたあと発症し,頭位変換のたび繰り返す. ■脳梗塞=突然発症.安静で改善し難い.ときに前駆の後頭痛あり(後述). ■神経調節性失神=立ち上がった,いきんだ. |
発症時の姿勢 | 発症瞬間の詳細な問診を行う. 姿勢変換・頭位変換と無関係に出現している場合には注意. |
性状 | ■回転性 vertigo:末梢性とくにBPPVに多い ■ふらつき dizziness:どのめまい症でも起きる ■気が遠くなる感じ presyncope:Must R/O |
前駆症状 | ■頭痛(後頭部痛) : 椎骨脳底動脈解離(➡延髄外側症候群) ■眼前暗黒感・血の気が引く感じ:前失神 ■1週間以内の前感冒:前庭神経炎 |
持続時間 | ■瞬間的:起立性低血圧,迷路瘻孔 ■数秒から数分:BPPV ■数時間から半日:メニエール病,片頭痛関連めまい ■数日以上:薬剤性,前庭神経炎,突発性難聴,外リンパ瘻,腫瘍,脳卒中 |
増悪/寛解 | 「頭位変換による増悪」 はほとんど全ての眩暈で起きる. BPPVでは「同一頭位での減衰」の方が重要.中枢性は減衰が乏しい. つまり増悪ではなく寛解因子「動かないこと」「一定方向で横になること」に注目する. |
出血既往 | 前失神の r/o.黒色便は高齢者全例確認. ほか,胃癌の既往など貧血性素因は意識的に聞いておくのが良い. |
脳卒中リスク | Af,HTN/HL/DM,喫煙歴,MI既往,高度肥満,SAS,多量飲酒,脳梗塞既往など |
身体所見
- 必ず確認:F/N陰性,構語/嚥下障害なし,温痛覚障害なし,立位正中保持+自力歩行可能
- これらのいずれかが当てはまらなければ,中枢性めまいの確率が高くなる
眼振 | 検者の指は患者から30cm以上離し,30°以上の側方視とならない範囲2)で確認 垂直性(特に下眼瞼向き)眼振,非典型的眼振(=1分以上持続,方向交代性)は要注意. 従命困難症例は,HisB点滴 ®プリンペラン(嘔気止め)などでまず悪心を收める3) 流れるような動きで眼瞼結膜貧血も見ておこう |
温痛覚 | 必ず顔面+四肢で左右差を確認する. 主に延髄外側症候群(=麻痺なし・失調めまいのみ+温痛覚障害+α)を想定して施行するが,延髄外側は障害部位によって温痛覚障害が交代性にならないこともある.また粗大な触覚は延髄外側では障害されないため,触覚の左右差を確認してもあまり有用ではない. 痛覚は木製の舌圧子を先端が尖るようにナナメに割ってツンツンすると良い(ディスポになる)4) |
F/N test | 小脳失調の確認.小脳虫部のみなど,部位によっては陰性になるため注意. かわりに体幹失調による歩行困難が前面に出る |
Head impulse test | 前庭機能低下を発見する身体所見. 突然頭部を他動的に回旋させる.陰性であれば前庭神経炎は否定できる. walk-inめまいなら,とっておくのもよい.救急搬送のゲロゲロ系の人に対しては鬼畜の所業になりうるため注意. ◆ HINTS(①+②+③) は中枢性の除外に有用,らしい. ① HIT Head-Impulse Test ② ⽅向交代性眼振・垂直眼振 Nystagmus ③ Skew deviation Test of Skew 1. HIT異常(末梢パターン) 2. ⽅向交代性眼振なし 3. Skew deviationなし ➡ 3つが揃えば, ほぼ中枢性病変を否定できるという報告がある5) |
蝸牛症状 | 片側の耳鳴り,耳閉感,聴力低下を確認.末梢性眩暈の鑑別として. 蝸牛症状あり=突発性難聴やMeniere病 蝸牛症状なし=BPPVや前庭神経炎 |
歩容 | 帰宅の前に必ず確認. 小脳梗塞の部位によっては体幹失調のみの場合もある. 体幹失調がしっかりある場合,座位や立位の正中保持自体も難しいとされるが,程度による. |
検査
ABG | 貧血,電解質異常,低血糖,CO中毒をすぐ確認できる. CO中毒を全く疑わない状況であれば VBG で十分. |
ECG | 心原性失神の素因(徐脈性不整脈・ジゴキシン中毒)がないか.心原性の r.o目的. また,脳梗塞リスクとしてのAfを確認. |
TTE | 心原性失神の素因(AS,HOCM,疣贅,Myxoma)がないか確認できる. 失神原因になる程度のものであれば聴診で雑音を指摘できることが多いが,雑音がなくても高度AS等は否定できず(むしろ一定以上を超えると聴取し難くなるとされ),TTE施行は省かないのが無難. |
頭部CT | 出血(小脳出血,SAH)は否定できるが梗塞は否定できないので正直あまり有用ではない. 血管リスクが高い場合や,受診時に高血圧,頭痛など所見があれば,施行を検討. Early-CT sign は肝心の脳幹と小脳では発見し難いのが難点. 1日以上経過していれば指摘が容易になる. |
頭部MRI | しばらく経過しても歩けない,失調がある,構音障害や温痛覚障害がある. そのような場合には(施設的に可能であれば)MRIまで施行が望ましい. 特に強い頭痛・後頚部痛を伴う眩暈では,椎骨脳底動脈解離を警戒して必ず MRA を撮像する. なお,MRIの脳梗塞に対する感度は100%ではないので注意(特に後方循環系,特に超急性期). |
帰宅対応/説明/処方
再発の可能性 | ちゃんとお伝えしておく.トラブル防止も. |
麻痺・ろれつ不良 | 出現した場合には必ず再診を.脳梗塞は徐々に症状が顕在化することもある. |
転倒注意 | 一般的な注意事項として |
運転注意 | プリンペラン/ドンペリドンは眠気も出る. |
薬剤注意 | 被疑薬があるのであれば中止して頂く. ただしBZ系を初めとする中枢神経作用薬は基本的に「急激なoff」が禁. 必ず半量内服などを挟んで漸減して頂くように指導する |
- めまい適応処方:ベタヒスチンメシル酸塩(メリスロン®),ジフェニドールなど
- 悪心の対症療法:ドンペリドン,メトクロプラミド(プリンペラン®)など.
- 末梢性の疑いが強くても歩けないレベルのめまい症であれば,耳鼻科などに緊急入院も含め相談
- 軽症・帰宅可能であっても希望が強ければ後日MRIを手配してもよい
耳石治療
- 耳石治療として Epley法などがある.余力があれば内科でも行えるとよい.
- 実際の手法はこの論文などが参考になる6)
- 非特異的耳石治療として「めまい体操がある」ということはお伝えしてもよいと思われる
- が,不適切な運動をすると悪化する可能性についてもお話ししておく必要がある
Tips
- 患者さんは色々な症状を「めまい」と言って来院する。英語圏でも色々あるよう7)。
- めまいは古典的には 前失神 presyncope,回転性眩暈 vertigo,動揺性眩暈 dizziness(平衡障害,ふらつき)に大別される
- が,それぞれが中枢性/末梢性などと相関があるわけでもなく,あまり臨床的には有意でない分類
- 実際は非特異的な循環不全・疲労・ストレスによるものも多い(特にER搬送でなく内科受診パターン)
- 「メニエール病既往」は専門機関で診断されていない限りあまり信用しない方がよい
脚注
1)
解剖学的理由で最多
2)
生理的眼振が出ない範囲
3)
プリンペラン®+ポララミン®という伝統的な注射があるが,根拠はイマイチ不明
4)
酒精綿の袋がツンツンした物品なら,袋でツンツン,中身で冷覚を確認できる場合もある
5)
Stroke 2009;40:3504-10p 8 PMC4593511
7)
Mayo Clin Proc.2007 Nov;82(11):1329-40. PMID17976352