dz:cns:ms
多発性硬化症 MS
Tips
- 妊娠後期に従って再発率は低下するが,出産後3ヶ月は再発リスクが最も高くなる
- ただし,その後の経過としては経産婦のほうが未産婦と比べ疾患進行が抑制される
- 妊娠第1三半期においてはMRI撮像は避けるべき
- 進行型の中では 約15%が一次進行型で,85%が二次進行型
- 二次進行型には「再発を伴う二次進行型」と「再発を伴わない二次進行型」があり,多くは後者
- 本邦において難病指定.EDSS 4.5から受給対象
疫学
- MSの頻度は人種によって違う.
- 欧米白人に多く,北ヨーロッパでは人口10万人あたり100人以上の患者がいる地域もある
- 高緯度地方ほど患者の割合が多いことが知られている
- 本邦では比較的まれで,10万人あたり14~18人程度と推定1)
- 若年成人に発病することが最も多く,平均発病年齢は30歳前後
- 50歳以上の方がMSを発病することは少ない
- 女性に多く,男女比は1:2~3位
原因
- 明確にはわかっていないが,自己免疫説が有力
症状
- 起きる症状は,どこに病変ができるかによって千差万別.
- 視神経が障害されると視力低下や,時に視野欠損も起こしうる
- 脳幹部が障害されると複視,眼振,顔面の感覚や運動障害,まれに嚥下・構音障害をきたす
- 小脳が障害される場合もある
- 大脳病変の多くは無症候性だが,長期経過で認知機能に悪影響があるとされている
- Uhtoff徴候:ウートフ徴候.運動や入浴など体温上昇時に神経症候が一時的に悪化する現象.脱髄病変部位における神経伝導が一時的な障害を受けるため,以前に経験した,あるいは潜在的な症状が一 過性に出現すると説明される.体温を下げることで回復する場合が多いが,時に不可逆性.
診断
- MS診断に関してはMcDonald診断基準が2017年に改訂されている.
- この改訂で特徴的であったのは,髄液OB(等電点電気泳動+イムノブロッティング法)の存在を時間的多発の証明として利用できるようになった点
- しかしこの診断基準の注意点をまとめたThompsonらのレビュー2)では,典型的CISでない場合の拙速な過剰診断に注意喚起がされている.
- 特に髄液OBは特異度が極めて低い検査項目であり,他疾患との鑑別には向かない.
CISからの移行
- 初発が運動症状や多巣性病巣の CIS 患者は MS への進展のリスクが高い.
- 視神経炎を呈する CIS 患者は CDMS への進展が少ない
鑑別疾患
- 脊髄病変は時に脊髄腫瘍と紛らわしいことがある(病歴が急性である点,経時的にむしろ緩徐縮小する点などがポイント)
- 長軸方向に1スライス程度であれば可能性が低いが,それ以上長くなる様であれば,MOG抗体,AQP4抗体は要確認
治療
治療目標
- DMTは従来,安全性の高い注射薬から開始し,効果不十分時にescalationする手法が推奨されてきた.
- 2019年頃より,早期からナタリズマブやフィンゴリモドを導入するearly aggressive therapyの方が二次進行型への移行リスクが低い可能性が示唆され,支持されている3)
- 長期治療効果目標は NEDA-4(no evidence of disease activity-4)
- 臨床的再発がないこと
- 総合障害度(EDSS スコア)の悪化がないこと
- MRI で新規・拡⼤ T2 病巣もガドリニウムで造影される病巣もないこと
- MS に関連した脳萎縮の進⾏がないこと
- NEDA-5では上記に加えて NfL in CSFをみる
- NEDA-6では上記に加えて Cognitive impairment がないことをみる
治療薬
- 本邦で承認されている薬剤は以下
- 自己注射薬:インターフェロンβ-1b(ベタフェロン®),インターフェロンβ-1a(アボネックス®),グラチラマー酢酸塩(コパキソン®),オファツムマブ(ケシンプタ®)4)
- 点滴薬:ナタリズマブ(タイサブリ®)
- 内服薬:フィンゴリモド(イムセラ®/ジレニア®),フマル酸ジメチル(テクフィデラ®),シポニモド(メーゼント®)
一般名 | 標的 | 概要 |
---|---|---|
グラチラマ─酢酸塩 | DMDは妊娠中は中止が原則だが,本剤は投与継続を検討可 | |
フマル酸ジメチル DMF | ||
フィンゴリモド | SIP15)受容体 | 計画妊娠の場合,2ヶ月前から休薬が必要. 投与前に帯状疱疹ウイルス価測定し低ければワクチン接種推奨. 生ワクチン,抗不整脈薬Ia(プロカインアミド,キニジン),III(アミオダロン,ソタロール)は併用禁(徐脈副作用). |
ナタリズマブ | α4 インテグリン | extended interval dosingでPMLの頻度が約90% 減少 |
進行型多発性硬化症の薬剤 | ||
シポニモド | S1P1,S1P5受容体 6) | 2次進行型で障害進行を有意に抑制(SPMSにのみ適応) |
オファツムマブ | CD20 | 皮下注製剤.再発寛解型+2次進行型にも適応あり 年間再発率がオファツムマブ群 0.10~0.11 vs teriflunomide群0.22~0.25. |
ASCLEPIOS I/II trial 7) | ||
オクレリズマブ 本邦未承認 | CD20 | 1次進行型で障害が進行する患者の割合を有意に減少 |
予後
- 通常型MSの多くは再発寛解を繰り返しながら慢性に経過する
- 一部のMSでは最初からあるいは初期に再発・ 寛解を示した後,進行性経過をとる場合がある(一次性および二次性進行型MS)
- 再発を繰り返しながらも障害がほとんど残らないケースがある反面,進行して寝たきりとなる予後不良例がある
- ただし近年,DMTの進歩により予後不良例は減っている
dz/cns/ms.txt · 最終更新: 2022/12/11 by admin