脳神経の診察

1嗅神経閉眼してもらい,検側でない側の鼻腔を用手的に圧迫し,検側鼻腔に珈琲や香水を近づけ,匂いの内容を当ててもらう
2視神経視力:著しく悪ければ指の本数や手の動きを確認する(30cm程度).
視野:対座法では80cm程度の距離を保ち,検者の目を見ていてもらいながら,1/4ずつの視野で指を動かして,その指がどこであったか言ってもらう(指差しでもよい).
眼底:眼底鏡で乳頭浮腫(脳腫瘍)や視神経萎縮を確認する.神経診察の一環としては散瞳薬なしで行うが,難しいことも多い.
3動眼神経まず眼瞼裂の左右差を正視で確認.次に周囲をやや暗くし,瞳孔の形・左右差を確認したのち,十分な光量のペンライトで対光反射(直接・間接)を確認する.動眼神経麻痺,Horner症候群RAPD (Marcus Gunn瞳孔) etc を見る.
眼球運動は50cm程度離した検者の示指などを指標とし,正中および左右上下で動きを止めながら眼振・複視を観察する.外転神経麻痺やMLF症候群もここで確認する.
4滑車神経滑車神経麻痺時には上斜筋麻痺が起こり,患側の下内方向視が困難となる(階段が降りにくい).健側の肩に向かって頭を傾けることで,このズレが補正される.患側の肩に向けて頭を傾けると,患側眼が上転しズレが大きくなる(Bielchowsky徴候).
5三叉神経眼神経V1,上顎神経V2,下顎深頚V3.まずはティッシュで3枝の左右の触覚を確認.次に爪楊枝で痛覚を確認.その後,必要に応じて角膜反射(外側からティッシュなどを角膜に触れさせ閉眼)も確認する.
咀嚼運動を繰り返してもらいながら,咬筋1)・側頭筋2)の筋収縮を実際に両手で触れながら確認する.外側翼突筋3)は,頭頂部と下顎を検者が用手圧迫した状態で,開口努力をしてもらい,偏倚がないかを確認する.
6外転神経動眼神経診察時に同時に評価する(上述)
7顔面神経表情筋の運動,舌の前2/3の味覚,唾液腺分泌・涙液分泌に関わる.
運動では,前頭筋・眼輪筋・笑筋/口輪筋・広頚筋4)の順に上から診察する.
8内耳神経蝸牛神経と前庭神経が合流したもの.
蝸牛神経:耳鳴や耳閉感を問診後,閉眼してもらい,両耳それぞれで指こすりを行う.C128音叉を鳴らし,耳元に近づけ,聞こえなくなったと思ったらすぐに知らせてもらって,自分の耳で確認する(単純な聴力確認).その後,Weber試験Rinne試験を必要に応じて行う.
前庭神経:カロリックテスト,Dix-hallpike頭位試験.
9舌咽神経IX,Xは口蓋・咽頭・喉頭機能に関わる.責任を診察上区別することはできない.
軟口蓋,咽頭後壁は口を大きく開けてアーと言ってもらう.カーテン徴候は咽頭後壁で見る点に注意.咽頭反射を左右で確認(舌圧子で喉の奥に触れてゲェとなるのを見る).構音障害は口蓋音「ガギグゲゴ」,口唇音「パピプペポ」,舌音「ラリルレロ」,パタカパタカパタカ,などの言葉を言ってもらいながら確認する.球麻痺・仮性球麻痺カーテン徴候も参照.
10迷走神経舌咽神経と同時に嚥下機能評価で障害を判定する.上述.
11副神経胸鎖乳突筋,上部僧帽筋の筋力を見る.臥位で頚部屈曲をしてもらう場合には,両側の胸鎖乳突筋を同時に評価することになる.
12舌下神経純運動神経.自然な開口状態で fasciculation と萎縮を目視確認後,挺舌,上下左右の動きを見る.
1)
V3分枝の咬筋神経支配
2)
V3分枝の深側頭神経支配
3)
下顎を前方あるいは側方に動かす随意筋.V3分枝の外側翼突筋神経支配
4)
頚部の最も浅層に位置する幅広く薄い皮筋で,頚部・鎖骨下方の皮膚を上に引いて筋膜を緊張させ,口角を下方に引く作用がある.