• 色々と議論のあるテーマだが，ひとまず自己免疫性脳炎の1形態として考えておくのがよい
  • 国際的に（特に米国神経学会 AAN において）存在しない疾患ではないかと考えられている
    • 抗Tg抗体や抗TPO抗体の正常健常者での検出率が高すぎるため
    • 現代における自己免疫性脳炎の一部で，たまたま抗Tg抗体や抗TPO抗体陽性者を捕まえていたのでは？とする意見がある（後述の歴史的経緯を参照）

• 2017年の米田らのレビュー¹⁾より
• 橋本脳症では女性が72%.
  • 平均発症年齢は62歳，20~30歳代の若年と50 ~70歳代に二峰性
• 精神神経症状は多彩
  • 意識障害(66%)が最多
  • 次いで幻覚・妄想等の精神症状 (53%)， 認知症(38%)
  • 不随意運動 (振戦)(31%)
  • けいれん(29%）
  • 小脳失調(ふらつき)(28%)
• 運動麻痺，感覚障害，脳卒中発作，パーキンソニズム，自律神経障害は稀
• 脳神経症状も稀

• 1966年に Brain らが「橋本病を罹患するも，甲状腺機能が正常で，頻回の意識障害・精神症状を来たした 40 歳代の男性患者」を報告²⁾
• 1991年に Shaw らが「甲状腺抗体高値に伴う，ステロイド反応性のよい脳症」として5例報告³⁾
• 2005-2007年，米田らが抗NAE抗体をバイオマーカーとして提案⁴⁾
• 2006年，Mayo Clinic の Pabloらが SREAT（steroid-responsive encephalopathy associated with autoimmune thyroidistis）として 20例の臨床像をまとめて報告⁵⁾
• 2020年，Mattozziらが「21世紀の橋本脳症」と題する論文を掲載
  • 橋本脳症の診断基準がどの程度「ステロイド反応性」を予測できるか調べ，NAE抗体も含めて検討したが，疾患特異性に乏しく有用でないと結論した⁶⁾
  • 抗NAE抗体は橋本脳症が疑われる24例中1例，対照13例中1例で陽性であった
• 上記を踏まえ同年2月，米国神経学会 AAN の NeurologyToday にて “Hashimoto's Encephalopathy Diagnostic Criteria Don't Predict Treatment Response. Does the Disorder Actually Exist?” という論稿が掲載される⁷⁾．
  • 以下はその論稿からの一説
    • 「たしかにステロイドめっちゃ効く脳症ってのは，実在して，あの一群は忘れられないのよね……まあどうやってその一群を特定するのか，わからないんだけれど」 という臨床家の実感のこもったコメント

So, does Hashimoto's encephalopathy exist? “I don't know,” Dr. Graus said. “Perhaps it doesn't, but if it does, it certainly can't be defined by high TPO antibodies alone.” However, he added, “we can't forget there is a group of patients who do respond beautifully to steroids. But we have not found a good way to identify them.”